【 2008年6月 】アーカイブ

2008年6月 3日

6月朝礼 校長訓話

人生の「壁」。よき敗者こそ、よき勝者になる

 

 皆さんお早うございます。いきなりですが、本校の卒業生で23歳。北京五輪柔道男子60キロ級日本正式代表と言えば、さて誰でしょう?そうですね、平岡拓晃(ひらおか ひろあき)選手です。

 彼は皆さんへ、このことを報告するため、6月10日(火)、本校に帰ってきます。そのときには、私たちが元気を貰うばかりではなくて、心ばかりではあっても、彼の日本代表としての闘魂を呼びさませるような「エールを送る会」を持ちたいと思っています。楽しみに待ちながら、皆さんも、よろしく協力してください。

 さて、今日は、平岡選手についての報道記事を資料にしながら、「人生の「壁」。よき敗者こそ、よき勝者になる」というテーマで話してみようと思います。

 身長160cm、体重60kg、ほとんど私と同じ体格の平岡選手を郷土の誇りとして紹介している中国新聞の報道の中に、「快進撃を支える向上心」という見出しでの記事がありました。その一部を抜き読みしてみます。

 『柔道男子60キロ級は、五輪3大会連続金メダルの野村忠宏(のむら ただひろ)が長く頂点に君臨していた。「野村時代」に終止符を打ったのは、新進気鋭の23歳だった。2004年のアテネ五輪選考となる全日本選抜体重別選手権では、準決勝で野村に敗れた。昨年の同大会も準決勝で負けた。何度も壁に阻まれた。「北京は譲れない」。昨年12月の加納杯と2月のフランス国際を制覇するなど、打倒野村が現実的なものとなった。全日本柔道連盟は60キロ級代表選考では、「経験豊かな」野村を推す声もあったが、「若さと勢い」の平岡が代表候補になった。五輪出場枠を懸けたアジア選手権でも優勝し、正式代表になった。』

 行く手を遮る手強い「壁」。「壁」が目前に立ちはだかった時、人がたどる道には二通りあります。一つは敢然として「壁」に挑戦し、何としても乗り越えようとする生き方。もう一つは「壁」に圧倒されて萎縮し、逃避してしまう生き方です。

 どちらに道を選ぶべきかは、言うまでもありませんね。過酷なまでの競争を体験した人間は、「負けること」を決して「どうでもいいこと」として、やり過ごしたりはしません。「負けたこと」の悔しさを「次の展開に持ち込むエネルギー」に変えてゆきます。人を「次の挑戦」へ向かわせるエネルギーの根源は、実は、「負けたことを本当に悔しく思う気持ち」から生まれてくるようです。

 準決勝で負けたことの悔しさが、一層検挙に精進することの大切さを平岡選手に教え、日本代表の座を獲得させたことは、誰の目にも明らかですね。

 形は違っても、「壁」は誰の人生にも必ず訪れてきます。壁に苦しみ、悩み、傷つき、苦悶し、抗う中で、人は技を磨き、力を蓄え、自らの人格を成長させてゆきます。

 「壁」に当面しても、そこから逃げてはなりません。「壁」はその人の能力をさらに高め、魂を磨き、その人を本物の人物にするために、天が与える試練だと、捉えてみてはどうでしょうか。私たちに何かを学ばせるために「壁」はそこに現れるのだと捉えてみてはどうでしょうか。

 松下幸之助が残した言葉があります。「人間は自らの一念が後退するとき、前に立ちはだかる障害物がものすごく大きく見える。それは動かすことのできない現実だと思う。そう思うところに敗北の要因がある」。

 さて、オリンピックにも世界選手権にも出場経験のない平岡選手ですが、彼は先ほど引用した記事の中で、こんなことを述べていました。

 「海外の選手は誰一人油断できない。自分は、技、スピード、パワーのすべてがまだない。もっと実力をつける。期待・重圧は身にしみるが、小学1年から柔道をやってきたのは金メダルのため。まずは自分自身のために優勝する」。

 「自分自身のために優勝する」。全くそうですね。自分は自分の主人公です。世界でたった一人の「自分を創ってゆく」責任者です。自分を育てることを他人任せにしてはなりません。「自分は、未熟な今の私を創ってゆく責任者」であることを忘れてはいけませんね。世界の頂点に立とうとしている平岡選手に負けずに、私たちもこのことをしっかりと自覚して、未完成の自分の完成度を少しでも高める努力を日々積んでゆかなければなりませんね。

 苦悩に満ち満ちた未完成。自らの終焉の時でさえも、たぶん未完成。この意味で壮大なる未完成。これが私たち人間の姿です。でも、未完成であることは苦悩であるばかりではありません。自分の磨き方次第でどのようにでもなり得るという意味で、楽しみでもあります。「現状に甘んじることなく、主体的な営みを続けること」、この過程こそが「生きる」ということの現実なのではないでしょうか。

 6月10日を楽しみにして、今日はここまでにしておきましょう。

 終わります。

 



アーカイブ

  • rss1.0
  • rss2