10月朝礼 校長訓話

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~「ハッとする、ヒヤリとする、ドキッとするのは事故の前触れ」~

 

 お早うございます。皆さんは、去る9月23日、本校の工事現場で起きた痛ましい事故については、すでに承知しているところですが、今日は、被災された方のご冥福を心からお祈りしながらも、この出来事を一つのきっかけに、私たちが教訓として学ぶべき大切な事柄について、皆さんと共に考えてゆきたいと思います。 

 今回のクレーン作業中の鋼材落下によるオペレーターの方の死亡事故については、工事に関してその準備や工事の方法、現場での施工の実態などについて、労働安全行政や警察などから聞き取りや現地調査などが行われ、工事実施上の安全性について調査・検討がなされましたが、特に問題点はないということでした。

 監督行政からは「工事については続行を許可する」という判断が出されたところですが、ここには私たちがしっかりと考えておかなければならない大切な事柄が隠れています。

 「それでも事故は起きた」という「事実」があることです。

 「おとなの童話作家」とも言われているサン=テグジュペリの作品に「星の王子さま」という物語ががありますね。彼はこの作品の中で、「大切なことは目に見えないんだよ。人間っていうものはこの大切なことを見落としているんだよ」と述べています。

 「大切なことは目には見えない。本当に私たちが学ばなければならない重要な事柄というものは、目の前で起きるその事実を通して、真剣に学び取ろうとしてその現実をしっかりと見つめて、深く考え続けなければ、とうてい見つけ出すことなどはできはしないだよ。私たちはこのことに気付いていないんだよ」。

 今日はこのことについて、皆さんと共に認識を深めたいと思います。

 「安全面には十分に配慮しているから事故は起きないだろう、日頃から用心しているから自分は事故とは無縁だよ」。

 私たちは平素、そうであってほしいという期待も込めて、このように考えがちですが、このように考えてしまったのでは、その後においても「その時のあれ以上の安全対策」を採ることは、たぶんないでしょうから、いずれは災難や事故に本当に遭ってしまうことになります。

 「あの時はヒヤリとしたよ。ハッと・ドッキリだったねー。肝を冷やした分、心臓に悪かったけど、何ともなくて良かったよ。やれやれ」。

 これで終わってしまったのでは、いつかまた同じ目にあって、今度こそ本当に痛い目に遭うことになってしまうでしょう。

 「厄難や災難には出会うもの」。「事故は起きるもの」。「ハッとする、ヒヤリとする、ドキッとするのは、事故の前触」。

 このように考えてこそ、それまでよりも効果の高い安全策を講じることができます。たまたま出会った出来事からも、「なぜだろう?。どうしてだろう?」と考えを膨らませてゆく事が大切です。

 学んだこと、気付いたことを基にして、例え僅かではあっても、今の自分の日常を改善することが、結局は、我が身を守る最善の策となります。

 原子力エンジンやコンピューター機器、飛行機や船、自動車や新幹線。私たちがヒトとして持って生まれた本来の運動能力・精神能力以上の機器類を駆使することによって、現在の私たちの生活は成り立ってゆきます。

 私たち人類は、この意味で自分たちの能力を遙かに超えた「神様の手や足」を手に入れていると言えます。しかし、ここには「恐ろしい闇の部分」が存在しています。「神様の手や足」を手に入れた我々ではありますが、大変なことには、「神様の心」はまだ手に入ってはいないのです。

 日々改良され高機能でハイパワーになる一方の「神様の手や足」ですが、これらはマニュアルを入念に読み、使用方法を繰り返して訓練し、熟練することによって、効果的に活用することができるようになります。

 しかし、ヒトの歴史において、いまだに人間同士が殺しあうというテロや戦争がなくならないことからも明白なように、「ナショナルスタンダードな神様の心」を、私たち人類はまだ見出すことができないままです。

 日々成長発展を続けて強大になる一方の「神様の手や足」を持っていながら、「人類誕生の頃とあまり変わらない心」しか持ち合わせていない存在、言うならば、「偉大なる未熟」、これが私たち人間の正体です。だからこそ、自分の持つ価値の尺度、価値基準を確立して、感度の高いアンテナを高く伸ばして、常に考えながら行動することを欠かしてはならないのです。

 半ば自嘲じみた表現に、「しょせん人間なんだから」という言い回しがあります。ヒトには「落ち度があるのが当たり前」、ヒトは「そのままでは失敗するのが当たり前」、ヒトには「出来ないことがあるのが当然」。

 であるからこそ、意識して「一つの出来事をきっかけとして、広く深く考えること。自分の考えを深耕する習慣を持つこと」が大事になります。

 「大切なことは目に見えないんだよ。人間っていうものはこの大切なことを見落としているんだよ」。お互いにこの言葉の意味するところを是非、大切にしましょう。

 これから非常に近いところで工事が進んでゆきます。工事の安全な進行に関わって、また、皆さんの安全確保に関わって、施工業者の方々からの協力も得ながら、引き続き安全確保に努めてゆきたいと思っています。

 そのためにも、皆さんは指導に素直に従ってください。また、「厄難や災難には出会うもの」、「ヒヤッとハッとドッキリは事故発生の確かな前触れ」ですから、皆さんが不安に感じることがあったりすれば、「まあいいか」ではなくて、必ずそのことを私たちに知らせてください。

 未熟な心しか持ち合わせていない私たちが、神様以上の手足を備えて、それらを日常として活用し、生活しています。コントロールを間違えばたちどころに大惨事が起きることはわかりきっています。私たちは大きな危険と常に隣り合わせで生きていることの危うさを、互いにしっかりと認識しなければなりません。

 「目に見えない大切なこと」は、「感性豊かな心の目」、つまり、「分かろうとして本気で考えること」によってしか、感じ取ることはできません。これからおよそ11ヶ月の間、不自由な時期が続きます。「皆が安全であること」について、より一層注意を払いながら、工事の安全な進行に対して積極的に協力してください。

 昔から言います。「心眼を開け。目に見えないものは心の眼で見よ」。

 終わります。



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